眠い目をこすりながら観た甲斐がありました。チュニジアーイングランド戦。点が入り、勝つ。このシンプルなことがなぜイングランドは過去数回のW杯で出来なかったのでしょう。

6月18日 パスをしないキャプテン誕生
チュニジアーイングランド 1−2

 やたらとチュニジアのDFからロックをかけられて身動きができなくなっている選手がいる。9番ケイン。LA LA LANDのライアンゴスリングによく似た顔立ち。5月22日にW杯の本キャプテンになった。
ケイン白


 イングランドのキャプテンといえば、テリー、ジェラードと中盤でゲームを司るタイプを思い出す。わんぱくルーニーもキャプテン腕章をつけたのは、丸くなった30歳になってから。
 
 ケインは、トットナムホットスパー所属のFW。2016年、17年とプレミアリーグの得点王だ。そんな点取り屋が弱冠24歳にしてキャプテンになった。
 2016年のEURO、イングランドは初戦であのアイスランドに負けて敗退する。そして代表チームは国民からの信頼を失った。それをこのW杯で回復しないといけない。だから自分が点を取らないといけない。ケインは各種メディアで語っている。
ケイン赤
         2点目を決めてはしゃぐケイン

 代表チーム同僚のMFデルフは語る。「キャプテンマークをつけたことで、ケインが変わったことはない。今でも全くパスをしないんだ。でも彼は全てのチャンスでシュートを打つ」パスをしない代わりに、自分でボールを取りに行くFW。この試合でもチュニジアの4番メリアートとPKを決めた13番サシにがんじがらめにされていた。
ケインラグビー


チュニジア13
         前半にPKを決めて大喜びのサシ

この数々をファウルに取らない審判をイギリス国民はTwitterで「サッカーなのにラグビーが見られる!」とジョークにしていたが憤慨していなかったのは、きっとケインが決めてくれると信じていたからだろう。最後に絶対決めてくれるキャプテン。まるで漫画だけど、ちょっと羨ましい。

イングランド団子
         団子になって大喜びするイングランドチーム。なにせ若い

 そんな24歳をキャプテンにした監督も慧眼だが、イングランドについては書く機会があるはずだから、また後で。

 

 まさかの敗戦。ドイツがW杯で初戦を落とすのは1982年以来です。前回王者がいきなり苦境に立たされた訳は。

6月17日 タブレットがもたらした勝利、的な。
ドイツーメキシコ 0−1 

 ドイツは当初、順調に見えた。エジルは素早くボールをさばく。クロースは前のめりに蹴る。いつも通りだ。20分時点でボール保持率は60:40。なのに我々は、ドイツのGKノイアーをすでに3度見ている。つまりドイツから一旦ボールを奪うと、メキシコは鋭いカウンターで斬り込んで相手ゴールをより脅かしている。前半35分の1点も、高速カウンターからエルナンデスがドリブルでボールを運び、ロサーノに渡したボールから生まれた。その間たったの11秒。凄い。全てがシナリオ通りに進行しているかに見える。
ロサーノ

 メキシコ国民は、W杯直前まで「こんな監督、クビにしろ」と言い続けたことを反省しなければいけない。なぜ彼らがオソリオ監督を嫌ったのか。メキシコの監督は国民みんなに夢を見させる人でなければいけない。それなのにオソリオは数字や戦略にこだわりすぎるんだ。それが彼らの言い分だった。

 W杯のIT化はビデオ判定だけではない。このロシア大会から電子機器が解禁され、各チームにタブレットが2台提供されている。1台はアナリストのブース。ここにはメディアが撮った生映像とそこから取れる試合データがザクっと送られてくる。そしてアナリストは、このデータから作った静止画と彼が書き込んだテキストを、ベンチにいるアシスタントコーチのタブレットに送り、無線通信またはチャットでやりとりできる。

 放送中、メキシコのアシスタントコーチが途中選手に何かを見せながら人差し指を動かしているシーンを2回見た。送られたデータを活用していたか定かではないが、タブレットを活用していることは伺える。”プロフェッサー”のあだ名を持つオソリオ監督にとって、タブレット解禁は渡りに船だったのではないか。
 
 ドイツの先発メンバー中、2014年のW杯経験者は8人、うち6人は10年も出場している。いわゆるレーブチルドレン。新しいメンバー、キミッヒもバイエルンミュンヘン所属だし、ベルナーは昨年のコンフェデ杯の得点王だ。全員のデータはダダ漏れ状態に等しい。オソリオは、この6ヶ月研究したしゴメスがラスト10分に投入されることも想定内だった、と試合後のインタビューで答えている。
オソリオ監督
       何回撮ってもドヤ顔しか捉えられず

 ドヤ顔で答えるオソリオと対照的なのは、試合終了後にチチャリートことエルナンデスが見せた涙。ここまでの道のりを想像させる。

チチャリート涙
       チチャリートか、いにしえの浜崎あゆみか

 交代でゴメスが入る時、ドイツのアシスタントが黒いファイルを開き、紙をめくって説明するのが見えた。そもそもデータの本格的活用は、2014年W杯前にドイツチームが情報処理大手SAPと一緒に開発したMatch Insightsなる分析システムが最初だというのに、なんと皮肉なことか。それほどレーブ監督には余裕がなかった。番狂せは楽しくて、切ない。

 






 アイスランドといえば、クルマの撮影場所。温泉がある。数年前発音できない名前の火山が爆発してヨーロッパの飛行機が飛べなくなった。そんなイメージしかありませんでした。でもコークの一人当たり消費量が世界有数という事実も。意外すぎる。

6月16日 アイスランドー副業チームの偉業 
アルゼンチンーアイスランド 1−1 モスクワ

 誰がこんな展開を想像していただろう。18分にアグエロがアルゼンチンの先制点を取ったまではよかった。ところが20分を過ぎた頃から、メッシの表情が固くなる。なにせボールが通らない。俺ら強豪アルゼンチンがW杯初出場アイスランド相手に、こんなんでいいのかよ。そう問いかけているように見える。
 自分の足元にボールがくると、アイスランド勢が3人やってきてプレスをかける。ゴールエリアに攻め入ろうとしても、最後のラインに5人が一直線に並び、そこから前後に揺さぶりをかける。ある意味教科書のようなサッカー。でも、全員がのびのびとプレイをしている。
 
 そんなサッカーをチームに叩き込んだのは、ハルグリムソン50歳。6年前はFIFAランキング133位だったアイスランドを22位にした。2013年。代表チームでスウエーデン人の名将、ラーゲルベックのアシスタントコーチに就任し基礎を学び、2016年のユーロ後から単独でアイスランド代表を率いて、今回チームを初めてW杯に連れてきた。
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        ©︎ Tom Jamieson for The New York Times
 
  男の本業は歯医者である。サッカー監督と何が共通しているんだろう。「歯医者の椅子に座る人間のタイプは3つだ。心底怖がってる患者。何も気にしない患者。治療中眠りこけている患者。それぞれに違うアプローチをするように、サッカーのプレイヤーにも対応すればいいんだ」一年中移動が多い監督業で、彼のリラックスできるのは患者さんの歯を抜く時だと。面白い。


 もう一人のパートタイマーの話をしよう。メッシのPKをアイスランドのゴールキーパーの体がビューンと伸びて止めた時、私は鳥肌が立った。テレビを見ていたアルゼンチン人はもうヤダこんなの!とリモコンを投げ出したろう。テレビの実況アナウンサーは、” Elastic! (ゴムみたいだ)" と絶叫していた。
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 ゴムのようなゴールキーパー、ハルドールソンの本業はフィルムディレクターだ。このコカコーラのCMを見て欲しい。アイスランド特有の応援のリズムと、みんなの仕事と、サッカー応援と、コークの清涼感が見事に一つになっている。こうやって書くと陳腐になってしまってハルドールソンに申し訳ないのでぜひ実物を見てください。悔しいなあ、こういうの作りたいなあ。これは私の本業の本音。





 
 


 

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