先週の金曜日ようやく日本から船便が届いた。三か月と少し長旅をしてきた荷物との、待ちに待った再会。荷物は詰めるときより、ほどくときの方がスムーズ だし楽しい。そりゃそうだ。厳選のものしか持って来ていないから。私の荷物は 全体の1/3を占める書籍、お酒を楽しむためのグラス類と器、靴でほぼ全部。あとは台所用具と服とCDが少々。 
 ガムテープが新しく貼られている箱があった。4箱に1箱くらいの割合で開けられ中身をチェックされているというわけ。開けてみるとなくなっているものがあることに気がつく。玄米とオリーブオイルは引っ越しの時点で業者さんに「ベトナムはこれらの持ち込みは禁止されてますね」と言われて泣く泣く取り出しご近所にあげたんだった。えーと、お素麺がない。心待ちにしてたのに。他に抜き取られていたものリスト。フィスラーの鍋セット。普通のバルサミコ酢(チョコレート風味のバルサミコは紙でぐるぐる巻きにして小さいバスケットに入れてくれた業者さんのおかげで無事だった)。 花柄で有名なマリメッコのペアマグカップ(未使用)。Hello Kitty グッズあれこれ(プレゼント用)。チューブ入りわさび。生姜は無事だった。何よりも不思議だったのは塩。石垣島の塩。よくわからない。さらに京都は原了郭の黒七味。竹を切った容器に入っている、ちょっとクセのある匂いのアレですよ。ますますわからない。
 なぜこんなものばかりを持っていくかなあ。基準がわからないよ。しみじみボヤく私に友人が「自分の奥さんと子どもが欲しそうなものを抜き出したんじゃないの?」とひとこと。ふーん、そうかー。ってそんな気のきいた旦那というか税関職員がいるのか。どこの国の人か存じませんが。
 一つわかったのは、塩が3か月なくても人は生きていける。それともう一つ。私は 本とお酒と歩くための靴があれば楽しく生きていける人らしい。 

 オフィスが新しいビルに引っ越し、3週間が経った。気がつくとエレベーターは4階の次は4A、12階の次は12Aに停まる。キター!これは映画「マルコヴィッチの穴」に出てくる7と1/2階のようにfloor
半分の高さのオフィスがあるに違いない!このフロアにある穴に入れば誰かセレブになりすませるに違いない!(映画では、このオフィスの壁の穴に入ると、俳優ジョン・マルコヴィッチの脳の中に15分入れて彼を疑似体験できる)べトナムすげー!と一人勝手に数日妄想していた。どうでもいいけど、私はこの映画にスッピンで出てくるキャメロン・ディアスが大好きだ。
 さて、このフロアリングには何かひみつがあるに違いない。ローカルスタッフに聞いてみた。理由は意外に簡単だった。「3と13は不吉なんです。だから階がないんです」13が不吉とされるのはわかる。「13日の金曜日」のジェイソンが広告塔となっているし。 でも、3が不吉なんですか?欧米では3は万物の素とされる数字ですよ。なんでやねん?疑問は尽きぬが、さらにいうと3人で写真をとるのもいけないと。真ん中の人の魂が悪霊(ピーという)に抜かれるんですと。なるほどー。過日会社の写真撮影がありselfieを近くにいた3人で撮った時も誰も真ん中になろうとしなかったし突然「もう一人入れよう」という流れになって私は狐につままれた状態であったのだ。
 じゃあ吉とされる数字は?9という答えが帰って来た。日本では4と一緒に避けられる数字なんだけど。 理由は1桁の中で一番大きい数字だから、と、陰陽五行説の木火土金水と東西南北の4つを足せば9だからという、中国っぽい理由。いまでこそ8大好きの中国ですが昔は9が好きだったらしい。なーんだ、中国とベトナムって喧嘩してるけどやっぱり根っこがつながっているじゃないですか。
 マルコヴィッチの穴を期待した私は、ある日12Aで降りてみた。テナントがまだ入りきっていないので半分くらいガラーンとしている。あてもなくブラブラ歩いてると、ガクンと下に下がるではないか。キター、マルコヴィッチ!足下をみるとハイヒールがコンクリートの間にできた穴に ハマっただけだった。いろいろな意味で残念。

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 韓国ドラマを見ていると、主人公がインスタント麺やスンドウブチゲ(お豆腐のチゲ鍋)を料理で使った鍋からそのまま食べるシーンがよく出てくる。「はしたない」「若いって凄いな」見る度に思っていたのだが、まさか自分がこの歳になってすることになるとは思ってもいなかった。
 理由は二つある。インスタント麺を買って作ったから。ここべトナムではもの凄い数のインスタント麺がある。スーパーマーケットの1コーナー、長さにすると15m分くらい。タイやインドネシアからのものを足すと200種類はあるだろう。値段も20円から高くても70円程度。日本発べトナム観光ガイドのお土産おすすめ品にもインスタント麺が掲載されているので訪ねてくる人に「これ、美味しいんですか?」と聞かれて答えにつまり、うそをつくのはいかん、まずは試そうと買ってみたわけだ。
 買ったからといって鍋から食べなくてもいいだろうと思われるあなた、正解。2つ目の理由だが丼の器がないのである。ホーチミンに着任して3か月、日本からの荷物がまだ届かない。いま住んでいるのはサービスドアパートメントというところで家具や家電、ディナーセットやワイングラスなど西欧人が住むための最小限のものが揃えてある素敵な環境。しかし。丼はない。買えばいいでしょうとおっしゃるあなた、正解。決して高いものでもないし。でも、日本を引き払うとき自分が保有していたモノの多さに我ながら辟易していた私は、ここホーチミンで、できれば最小限のもので暮らす生活をしてみたかったのだ。もし船便が届けば、お気に入りのワイングラスとウイスキー用グラス、日本酒用のお猪口、漆器のお椀と箸置き、 伊賀焼の丼が届くはずだから。ねじれたプライド。
 さて。東京でも20年以上食べていないインスタント麺を幾つか試してみて、いけるなと思ったのはエースコックのフォーである。海鮮味。あなどれませんよ、これは。 ただやっぱり鍋から食べていると、心がささくれ立つような気がしてきて、遂に本日、器を買っちゃいました。外は白くて、中が水色のかわいいお丼。街の露天商で、片言のベトナム語でやりとりして2つで500円。ベトナム語の新聞紙に包んでくれました。ね、伊賀土楽にも負けてないでしょ。 

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