ホーチミンからクアラルンプールへ向かう飛行機に搭乗する。入り口に置かれた新聞の数々。ベトナム語は読めないので英字新聞を所望すると、スポーツ版で良ければとCAは、ある新聞のひと山を指す。スポーツ紙?そんなのベトナムにあったっけ?ともあれ読めるものであればいいので、イタリアの悪童サッカー選手バロテッリがバーンと出ている新聞をもらう。さて。スポーツ紙の正体は、普通の新聞なのに表紙面を見せないよう、ひっくり返して最終面(東南アジアでは大抵ヨーロッパのサッカー記事が掲載されている)を上にして置かれたものだった。

 なぜその英字新聞は裏を上に置かれていたのか。STARというマレーシアの代表的な新聞なのだが、一面はマレーシア航空MH17機に搭乗していて亡くなられた方の遺骸がマレーシアに帰って来たという記事だった。普段多色刷りな一面が、完全なモノトーン。なるほどエアラインとしては見せたくない記事である。1986年日航機が墜落した時、JAL、ANA、JASは凄惨な写真を表紙やグラビアに載せ続けた週刊現代、週刊ポストはしばし機内から遠ざけたというエピソードを思い出した。

  STARの巻頭から8ページまでが、機体の残骸からわかったことと死者の追悼についやされる。あの事故から既に38日。遺骸は数便に分けて運ばれ、このフライトが無言の客を運ぶ最後の組だったので記事も15人のマレーシア航空乗務員にまつわる話に終始する。彼が、彼女が、どんな人だったのか、印象的なエピソードとカラフルな写真を添えて語られていた。哀しみにひたるというより、彼らの人生がいかに生き生きしたものだったかを伝えていた。ときにクスッと笑わせるような。日本のメディアのお涙頂戴的アプローチとは全く違う語り口が、逆にじわじわ沁みてくる。Malaysia

 追悼ページも終わり普通の紙面を読み進めていく。STARは人気のある新聞なので、広告も沢山入っていて分厚く80ページ!土曜版だからかもしれないけど。ちょうど真ん中まで来て、花畑の写真が綺麗な紙面にぶつかる。次のページをめくるとPetronas(石油会社。名実ともにマレーシア一番の企業)からMH17犠牲者に対する追悼広告があり、その後数ページさまざまな企業から追悼広告が続く。一連の最後のページに、マレーシア航空のロゴとメッセージが出て来て、初めてそれが広告企画であったことを知る。最初のお花畑はなんだったの?と前のページに戻ってみると、実はこれもマレーシア航空の広告であった(写真参照)。こういうアプローチもありなのか。素敵だなあ。不謹慎かもしれないけれど。哀しみのなかにも、あたたかさがある。カラフル万歳。