2014年07月

 オフィスが新しいビルに引っ越し、3週間が経った。気がつくとエレベーターは4階の次は4A、12階の次は12Aに停まる。キター!これは映画「マルコヴィッチの穴」に出てくる7と1/2階のようにfloor
半分の高さのオフィスがあるに違いない!このフロアにある穴に入れば誰かセレブになりすませるに違いない!(映画では、このオフィスの壁の穴に入ると、俳優ジョン・マルコヴィッチの脳の中に15分入れて彼を疑似体験できる)べトナムすげー!と一人勝手に数日妄想していた。どうでもいいけど、私はこの映画にスッピンで出てくるキャメロン・ディアスが大好きだ。
 さて、このフロアリングには何かひみつがあるに違いない。ローカルスタッフに聞いてみた。理由は意外に簡単だった。「3と13は不吉なんです。だから階がないんです」13が不吉とされるのはわかる。「13日の金曜日」のジェイソンが広告塔となっているし。 でも、3が不吉なんですか?欧米では3は万物の素とされる数字ですよ。なんでやねん?疑問は尽きぬが、さらにいうと3人で写真をとるのもいけないと。真ん中の人の魂が悪霊(ピーという)に抜かれるんですと。なるほどー。過日会社の写真撮影がありselfieを近くにいた3人で撮った時も誰も真ん中になろうとしなかったし突然「もう一人入れよう」という流れになって私は狐につままれた状態であったのだ。
 じゃあ吉とされる数字は?9という答えが帰って来た。日本では4と一緒に避けられる数字なんだけど。 理由は1桁の中で一番大きい数字だから、と、陰陽五行説の木火土金水と東西南北の4つを足せば9だからという、中国っぽい理由。いまでこそ8大好きの中国ですが昔は9が好きだったらしい。なーんだ、中国とベトナムって喧嘩してるけどやっぱり根っこがつながっているじゃないですか。
 マルコヴィッチの穴を期待した私は、ある日12Aで降りてみた。テナントがまだ入りきっていないので半分くらいガラーンとしている。あてもなくブラブラ歩いてると、ガクンと下に下がるではないか。キター、マルコヴィッチ!足下をみるとハイヒールがコンクリートの間にできた穴に ハマっただけだった。いろいろな意味で残念。

写真
 韓国ドラマを見ていると、主人公がインスタント麺やスンドウブチゲ(お豆腐のチゲ鍋)を料理で使った鍋からそのまま食べるシーンがよく出てくる。「はしたない」「若いって凄いな」見る度に思っていたのだが、まさか自分がこの歳になってすることになるとは思ってもいなかった。
 理由は二つある。インスタント麺を買って作ったから。ここべトナムではもの凄い数のインスタント麺がある。スーパーマーケットの1コーナー、長さにすると15m分くらい。タイやインドネシアからのものを足すと200種類はあるだろう。値段も20円から高くても70円程度。日本発べトナム観光ガイドのお土産おすすめ品にもインスタント麺が掲載されているので訪ねてくる人に「これ、美味しいんですか?」と聞かれて答えにつまり、うそをつくのはいかん、まずは試そうと買ってみたわけだ。
 買ったからといって鍋から食べなくてもいいだろうと思われるあなた、正解。2つ目の理由だが丼の器がないのである。ホーチミンに着任して3か月、日本からの荷物がまだ届かない。いま住んでいるのはサービスドアパートメントというところで家具や家電、ディナーセットやワイングラスなど西欧人が住むための最小限のものが揃えてある素敵な環境。しかし。丼はない。買えばいいでしょうとおっしゃるあなた、正解。決して高いものでもないし。でも、日本を引き払うとき自分が保有していたモノの多さに我ながら辟易していた私は、ここホーチミンで、できれば最小限のもので暮らす生活をしてみたかったのだ。もし船便が届けば、お気に入りのワイングラスとウイスキー用グラス、日本酒用のお猪口、漆器のお椀と箸置き、 伊賀焼の丼が届くはずだから。ねじれたプライド。
 さて。東京でも20年以上食べていないインスタント麺を幾つか試してみて、いけるなと思ったのはエースコックのフォーである。海鮮味。あなどれませんよ、これは。 ただやっぱり鍋から食べていると、心がささくれ立つような気がしてきて、遂に本日、器を買っちゃいました。外は白くて、中が水色のかわいいお丼。街の露天商で、片言のベトナム語でやりとりして2つで500円。ベトナム語の新聞紙に包んでくれました。ね、伊賀土楽にも負けてないでしょ。 

あっという間の一か月でした。楽しかった。いまだ睡眠不足という余韻は残っていますが。
ひとつ発見だったのは、日本よりもべトナムでの視聴環境がよかったということ。がんばれニッポン!

7月14日 宴のあと。球をつかむ男たち

○ ドイツーアルゼンチン 1-0 リオデジャネイロ

 
宴が終わった。06,10年の脱力感を自分の中で反芻し危惧していたが、深夜2時からの試合を見て、通常通り会社に行くことができた。数日前のことなのに、もう一ヶ月ぐらい経った感がある。 

力が拮抗し攻めあぐねている試合だった。お願いだから延長戦-PK戦だけは避けてください神様と祈りながら見ていたのは私だけではあるまい。最初からドイツが優勝すると言い続けていたのでさしたる感動もなかった。ドイツ選手の奥様やガールフレンドは美人が多いなあと決勝点を決めたゲッツェと抱擁しあう彼女を見ていたりした。オヤジですみません。

 ゴールデングローブ賞をもらったのは、GKのノイアー。異議なし。MVPはメッシ。異議あり。もっとも一番疑問を感じていたのはメッシ本人だろうけれど。MVPもノイアーでよかったのではないだろうか。もっというと数人のGKにMVPをあげたい。

 コスタリカのナバス。PK戦までフルにもつれたオランダ戦での守りも凄かったが特筆すべきは決勝トーナメントの対ギリシャ戦だろう。120分の過酷な戦いで枠内シュート13本中12本を止め、PK戦でも1本止めてマン•オブ•ザ•マッチに選ばれた。セーブ率も91.3%と大会一だ。

 ベルギーのクルトワ。若い頃のジョージクルーニーのような顔つきでセーブ率85.7%。今期アトレチコ•マドリードをスペインリーグ優勝とチャンピオンズリーグ準優勝へと導いた陰役者である。120分の対アメリカ耐久戦で1点に抑えたのは素晴らしかった。このベルギーーアメリカ戦では、アメリカGKのハワードも壮絶だった。ベルギーにボコボコにされているという表現が適切なビッグセーブ連発で オバマ大統領が絶賛していたほど。実際セーブ数28(!),失点6 のセーブ率82.4%。

 メキシコのオチョアもよかった。スノボ選手のような容貌で、と真正面でたまたまそこにいた風情でボールをはじく(6月17日ブラジルーメキシコ戦参照。他のGKならブラジルは3点取れていた)。動体視力がいいのだろう、ゴールエリアという狭い空間でシュアな動きをしていた。それに対しノイアーの動きは特異だ。 選手のポジショニングをヒートマップで記録しているオプタ スポーツによると、ノイアーは今大会、19回ペナルティーエリア外でボールに触れている。リベロのようなGK。通称Sweeper-Keeper。DFの中に飛び込んでスウィーピングができるのは、もともとDFからスタートした彼のキャリアによるところが大きい。

 そもそも今回なぜGKのセーブ率が注目を浴びたのか。それはシュートの数が多かったから。ベスト8が揃うまでの56試合で154ゴールが生まれ、すでに過去2大会の総得点を上回っている。

 なぜゴールが多産されたのか。今までのボールは12-16枚のパネルで構成されたのに対し、今回のアディダス公式球「ブラズーカ」はたった6枚のパネルを溶接(今までは手縫いだった!)しているため、接合部分が少なく水を吸いにくい。雨の試合でも、点が入っていたのはそういうことだ。PK専門のGKが話題になったのもご愛嬌だが、GK 注目の陰にテクノロジーがあるのは、実に今っぽい。

 と書いてみたものの私は球を掴む男たちよりも、蹴る男に注目したい。ネイマール、そして今回一押しのコロンビアのロドリゲス、彼らはきっとロシアでも活躍してくれるに違いない。4年なんてあっという間だ。

 

 一ヶ月間おつきあいいただきありがとうございました。今回はいつものように毎日更新できなかったのが心残りです。まだネタはあるんだけど。いつか、どこかで語りたいですね。



7月13日 飛躍と衰退は同時に。

○ブラジルーオランダ 0-3 ブラジリア

○3位決定戦 ブラジルードイツ   1-7 ベロオリゾンテ(7月8日)

 

 ブラジルにいったい何が起きちゃったんだろう。明け方試合を見終わって、いや7月8日ドイツに7-1でブラジルが致命的大敗をくらってからずっと頭の片隅に巣食っていた疑問がむくむく肥大する。このもやもやを放っておくままW杯が終わると気持ちが悪い。2つの仮説を立ててみた。

 2002年13/23。06年3/23,、10年3/23,、14年4/23,。何の数字かおわかりだろうか。ブラジル代表23人中、コリンチャンスやサンパウロ、フラメンゴなど南米のクラブでプレイする選手の割合である。南米所属が13人いた2002年日韓大会で、ブラジルは優勝。この時キラ星のごとく活躍した選手だったジウベルト・シルバはアーセナルへ、カカはACミランへ。そしておばさん頭とちょっぴり出っ歯が愛らしかったロナウジーニョはバルサへと、W杯後ヨーロッパの大クラブへ移籍を遂げる。彼らにとってW杯は、移籍を、大金を手中にするための踏み台だった。

 06年ドイツ、10年南ア、14年ブラジル。3大会ともスター選手を揃えるブラジルだけに下馬評は高かったが、結果を出せずに終わる。上述の数字が示すように殆どの選手がすでに大クラブでプレイしている状態は、もう人参というエサがないことを意味する(因みにネイマールは2013年にサントスからバルサへと移籍済み)。さらに昨今のヨーロッパクラブリーグの強行スケジュールだと、ブラジル代表として顔を突き合わせる時間がない。もともとサッカーはカラダに染み付いた習慣であり考えるものではない(失礼!)彼らからすれば、日頃プレイを見てない同僚たちとチームを組み立てることは難儀だろう。監督がそういうことに得意な人であれば別だけど。

 そこで監督である。今回の監督はスコラーリ。02年はロナウド、リバウド、ロナウジーニョといったファンタジスタを生かした攻撃でブラジルを優勝に導いた名将である。その後ポルトガル代表監督に就任。EURO2004ではチームを準優勝させた。当時のポルトガルにはデコ、ルイコスタ、そして出てきたてのクリスチアーノ・ロナウドがいた。つまり芸術的な技術でボールを操りゲームまで創りだすファンタジスタ、とそれをサポートする選手がいるチームなら彼は指揮をとりやすいわけだ。2008年から09年にかけ、彼はプレミアリーグのチェルシーの監督になる。モウリーニョの戦略、戦術に慣れていた選手たちは、スコラーリの戦略のなさ、練習の単調さに不満を持ち、ドログバやテリーは改善を求める。その後成績悪化からシーズン途中での解任。圧倒的なタレントがいないチームでは、彼は弱い。

 そう考えると、ネイマールを欠いたドイツ戦、オランダ戦でいとも簡単に負けたことがすとんと腑に落ちる。

 ただオランダ戦で3分目のPKはブラジルにとって不幸だった。ロッベンのダイブはペナルティーエリア外だったのに。オスカルのイエローは不運だった。明らかにダレイプリントに足をかけられたのに。終了直前にオランダのGKシレッセンが第3GKフォルムに交代。オランダW杯登録23人全選手出場という思い出作りの舞台にされたこともブラジルにとって屈辱だった。これだけの不幸が重なることもそうあるまい。危機は、よい状態に向かうための機会でもある。数年前のカンヌ広告祭で元アメリカ副大統領がそう言っていたことを思い出した。ブラジルなら大丈夫。ユニフォームを着てベンチ入りしていたネイマールが、次のW杯で頑張ってくれるはずだから。

オランダーアルゼンチン戦。凄い試合でしたがまだもやもやしています。
今日は4秒じゃわからず15秒ほどかかるかもしれません。すみません

 7月10日  PKとは何だろうーオランダの2試合を通じて
○準々決勝 オランダーコスタリカ  0-0(PK4-3)   サルバドール(7月5日)
○準決勝 オランダ-アルゼンチン 0-0(PK2-4)  サンパウロ(7月9日)

 PK戦はサッカーではないと言ったのは元日本代表監督のオシム氏。私には離婚調停のようなものに思える。かなりの極論だけど。当人同士で決着がつかないから客観的なルールで結論を出すが、負けた方は忸怩たるものを背負って行くし、勝った方も結果に安堵するがすっきりしない。   
 対アルゼンチン戦。オランダもアルゼンチンも攻めあぐねる展開で、湿気75%の空気と戦う選手たちの疲労は高まるばかり。延長30分の戦いが終わりPK戦が始まる前、テレビはオランダの控えGKクルルを映す。彼は数日前、PK戦に突入したオランダーコスタリカ戦(筆者個人的には2014W杯で見応えNO1の試合だった)で延長の終盤、PK戦になることを予測したファンハール監督が交代で入れたGK。正GKのシレセンがプロとしてPKを一回も止めたことがないからだ。クルルは期待を裏切ることなくコスタリカの2人を阻止し、オランダは勝つ。ファンハールは名将と称された。
 クルルのアップは「また彼に代えなくていいのか」というメッセージのように見えた。実際、先発GKのシレセンはアルゼンチンで蹴った4選手全員に決められ、オランダは負けた。試合後の質問でファンハール監督は、アルゼンチンGKロメロに阻まれたフラールとスナイデルをかばう。そして語る。「シレセンを代えるチャンスがあればそうしていた。でもすでに3人の交代枠を使っていたのでできなかった。PK戦で負けるというシナリオは最悪だ」と。
 シレセンの気持ちを思うと切なくなる。準々決勝、準決勝とも濃い内容で、彼は90分+30分を2試合分守り抜いたというのにそちらについては語られず、PKを一度も止めたことのないGKとして記憶されてしまう。次期マンUの監督に就任するファンハールは確かに名将だろう。でも名将ならPK戦に持ち込まないシナリオを書いて欲しかった。
 アルゼンチンに負けが決まった後、ロッベンはひとりオランダサポーター席に向かう。彼らに挨拶すると思いきや、最前列に座っていた奥さんと子どもをハグしたところでカメラは切り替えられた。

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