8日の朝、いつものようにテレビをつけると"Je suis Charlie"(I am Charlie)とフランス語で書かれた紙を掲げる人たちの映像が目に飛び込んで来た。「私はチャーリー?なんのこっちゃ?Snoopyファンがチャーリー・ブラウンのファンミーティングでも始めたのか」と寝ぼけ眼をこすりながら見ていたら、どうやらパリでテロが起きた、しかも出版社が標的で10人ほど射撃されたというではないか。徐々に頭が覚醒するにつれ、Charlieはチャーリーじゃなくてシャルリーと発音するんだ、シャルリーは雑誌シャルリー•エブド:CHARLIE HEBDOのことなんだ、と納得した。yjimage
  さて"Je suis Charlie"のロゴは、Joachim Roncinというフランス人のアートディレクターが、事件後わずか1時間でデザインしたもの。そういえば311東日本大震災の後も、全国に節電を呼びかけるポスターは東京にいるアートディレクターたちが率先してつくっていたっけ。ふむ。左脳より右脳で考える人の方が、アクションが早いような気がする。そして彼のデザインした ”私はシャルリー” 画像は、Twitterのハッシュタグ #JeSuisCharlieをコアとしてまたたく間に世界に拡散される。それに追随して世界中のメディアが報道。いつのまにか"Je suis Charlie"は、たった2日間で言論の自由を守るスローガンとして認識されるにいたる。
 黒地に白のJE SUIS、グレーのCHARLIEが配されたデザイン、実によくできている。
CHARLIE HEBDOの表紙と題名と同じゴチック系のフォントを使うことで意志の強さが出ているし、JE SUISも同じゴチック系だが横に長く文字を細めにしてCHARLIEを引き立てるディテールにも好感が持てます。報道を見ていたらGaramondやTimes(ひらたく言うと明朝体)のフォントで書かれたJe suis ボードも国によって見受けられたが、フランス版オリジナルの方が哀しみと端正さが絶妙に表現されているというか。まあ、こういう類いのものを分析するほど無粋なことはないですね。すみません。職業病なので許してください。
 みなさん既にご存知のようにシャルリーが意味するCHARLIE HEBDOは、強烈な風刺画で有名な雑誌である。特にイスラム圏を攻撃するイラストが辛辣で、2011年にはマホメットを皮肉ったイラスト(写真1。笑いすぎて死ななかったら、ムチ100回の刑!と書いてある)が原因でビルに火炎瓶を投げられたのはまだ記憶に新しい。o-100-LASHES-570
ビンラディンを裸にして下半身をいじった風刺画などもあった。幾つかはときどき雑誌クーリエ•ジャポン(講談社)に掲載されたのを見ていて、確かに面白いんだけど正直ここまでやっていいのかなあと感じたこともある。新大久保や大阪で嫌韓のヘイトスピーチって続いてますよね。あれを聞いたときと同じような居心地の悪さかな。

 いま世界中で”言論の自由”の危機が騒がれているわけだけど、この雑誌に関して言えば、ヘイトと言論の自由のバランスがいまひとつ取れてなかったようにも思う。かといって、ムスリムを擁護している訳ではないですからね。誤解のないように。人を殺すのは絶対にいけません。
 "Je suis Charlie"のボードをデザインしたJoachimいわく「自分の思いを言葉にできなくて、イメージを作った」(I created an image because I didn't have the words.)そうです。でもこのデザインは、少なくとも世界中の人に、何かをつきつけて、心を動かしたメッセージだと思う。
48時間にダウンロードされて印刷された枚数という項目がギネスにあるなら間違いなく世界一のはずだ。
(写真2。ドイツのインテリ新聞Der Spigelの本社で撮影されたもの)。
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末筆になりましたが、犠牲になった皆様のご冥福をお祈りします。