2015年04月

 金曜の夜、ホーチミンの通りから喧噪が消えた。

 午後6時から夜中の12時まで市内中心地は車両通行禁止というお達しが出たため。4月30日は南部独立記念日。今年は40周年にあたるので、大きなパレードが予定されている。そのリハーサルを行うんだそうだ。ふだん金曜6時となれば、ここぞとばかりに家路を急ぐバイクとその合間をぬって走るバスとクルマが交差点で3すくみになっているので、誰もいない静かなホーチミンという光景にわたしの頭が納得していない。

Street26Apr

 オフィスを出たのは7時。タクシーも見事に消えてひっそりとしていて、戒厳令下の街というのはこういうものなのかなと通りを iPhoneでシャカシャカ写真を撮って歩く。昨年ホーチミンにきてから一番受けた注意は、町中で iPhoneを取り出して写真とったりしない、だった。なぜならバイクで走り込んで来る輩にひったくられるから。実際被害にあった2人からの忠告だったので、私はそれを守りました。でもね、今日は大丈夫。交差点ごとに警官や兵隊たちが立っているので全く危険がない。試しに彼らにカメラを向けてみると、手で×をする人たちと笑い返してくれる人たちがいて、それはそれで面白かった。 
 「 Masako san、12時まで仕事してからバイクで帰る。それまでにカンプを送るからチェックしてね」とスタッフが私の帰り際にいうので、おとなしく家でワインをちびちび飲んでいた。8時ごろ無地のバスが30台くらい一定の距離をおいてゆっくり走っているのがバルコニーから見えた。ちなみに私のアパートメントは中心地にある。
窓を開け放して何かが起きるのを待って待って3時間。10時半を過ぎたころ、何やらわーわー聞こえて来る。あれ、パレードに反対する人たちが酔っぱらってわめいてる?と思ったら、それがパレードの演習でしたよ。上から見たので小さい粒ですが、やはり北朝鮮や中国のように歩調は揃っている。ただ唄は練習したほうがいい(笑)。まだ本番まで4日あるから練習したほうがいい。Parade1


 11時ごろマレーシアから仕事でホーチミンに来ていた友人が、暗闇で撮った写真にcurfew とタイトルをつけてfacebookにあげていた。curfew: 夜間外出禁止令。消灯令。去年タイで発令されたときに、バンコクに住む友人たちのアップロードで覚えた単語だったわ。
 
 今宵のホーチミンは客観的にはそう見えるんだあと、夜の帳が降りて行くさまを5時間ほど眺めていた。

  

 3月終わりに弾丸帰国した際に、世田谷文学館で開かれていた岡崎京子展に行ってきた。もともと私は女子向き漫画は趣味じゃないのだけれど、彼女が描くものだけは別格で『pink』『リバース・エッジなんかをこの人すごいなあと思いながら90年代前半に読んでいた。学園プリンスや王子様が出てくる漫画とは180度違って、ちょっとひねくれた恋やSEX、果ては風俗が主題なのに彼女の世界が決して下品にならないのは、彼女がポップなタッチで描く女のこたちが、フランス女優のジーンセバーグを思わせるキュートネスを感じさせたたせいだったのかな。2012年に沢尻エリカ主演で映画化された『へルタースケルター』も、今の整形ブームをはるか昔に先取りして書いていたわけだ。 
 ちなみに彼女は1996年に交通事故にあって以来、昏睡状態にある。今回の展覧会が実現したのは、ファンと彼女の周りにいた文化人たちの要請によるものと聞いている。
 300点の原画を中心とした展示の最後のコーナーにあったのは『
うたかたの日々』の鉛筆書き原画数ページと天井まで拡大された主人公の姿。抜き出されたセリフの中から、次の一節が私の目を引き留めた。

「あたしベトナムの女の子に生まれたかったの」

「あの頃のベトナムや中国にうまれたかったの。そして一生懸命労働や戦争をするのよ」
 
 ひゃー、驚いた。彼女がこれを連載していた1994-95年、すでにこんなことを思っていたのか。私が初めてベトナムを訪れたのは1997年だったが当時あまりベトナムの歴史は知りませんでした。ゴメンなさい、みたいな尊敬の入り混じった驚き。この漫画、読まなくっちゃ。
 ホーチミンに戻ってきてから数日後のある日、小洒落たカフェに足を踏み入れた。
パリっぽさを狙っているのか、古いフランス語の本が何冊か棚においてある。その一冊を手に取ってみた。L'ECUME DES JOURS by BORIS VIAN 。訳すと、日々の泡。毎日シャンパンを飲み明かしている人たちの素敵な話かとぱらぱらめくってみると、コランとクロエという名前が飛び込んで来た。ん?岡崎京子の漫画に出て来た名前と同じ?帰宅してググると岡崎京子のそれは、このボリス・ヴィアンの物語『L'ECUME DES JOURS うたかたの日々』を原作にしたものだったのだ。
 ということは、ベトナムの女の子に生まれたかったの、のくだりはパリ在住フランス人ボリスが書いたものか。ふむ。歴史的に、フランスとベトナムはいろいろあった。美味しいベトナム料理やさんがパリには沢山あるし。関係ないか。『
うたかたの日々』でクロエの肺から蓮の花が生える奇病にかかるというプロットも、蓮を国花としているベトナムにヒントを得たのだとも思えてくる。 
 ただ岡崎版『うたかたの日々』は、原作をベースに著者がプロローグ、ラストを書き加え加筆修正したとあるので、ベトナムの女の子に生まれたかったの、はもしかして岡崎京子が書いたかも?という1%の期待(どういう期待だ)も捨てられないでいる。
 で、両方をamazonに注文してみました。こんな風に、岡崎京子はいつも考えるタネを私に植え付けてくれる。また元気になって、素敵な漫画で小難しい人生を軽やかに語ってほしい。 
 ところでキャッチコピーの”戦場のガールズライフ”、何から来たコトバなん
岡崎京子1
でしょうね。





 
 

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