先日、機内で 'Darkest Hour' というタイトルにつられて映画を観ました。スティーブンキングっぽいホラー映画と思ってたら、これが話題の『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(以下『チャーチル』)。気がついたのは開始から10分ほど経ってからか。どんだけうといんだ、私。
日本を離れてから、あまり事前調査をしなくなりました。所有すること、縛られることに興味がなくなったこともある。自分の知る情報から動くと開拓範囲に限界が出てくるから、未知のものにあえて触れることを本能的に選んでいるのかもしれません。
言い訳はさておき、『チャーチル』地味に(褒めてます)いい映画だったな。朝っぱらからシャンパンやウイスキーをあおって仕事をするので、国王に何度も諌められるチャーチルにはクスッとさせられたし、黒と茶色のアートディレクションが効いているのもよかった。あらすじは、第二次世界大戦初期のいわゆる’ダンケルクの撤退’に至る数日間の出来事。
覚えてます?去年日本でヒットした『ダンケルク』なる映画を。クリストファー・ノーランが脚本を書いて撮った『ダンケルク』は、これから階段を駆け上がっていくだろうと思われる若手俳優たちが沢山出ていてイギリスとフランスとドイツの軍服がカッコよくて実に眼福な映画でした。もちろんドイツ軍によってダンケルクという街に孤立させられた33万人のイギリス兵が民間のボランティア船によって助けられる=撤退する物語も圧巻。ただ何故そうなったかの解説は一切なくて、5日間でいかにこのダンケルクの撤退が実行されたかを陸と空と海の3象限から淡々と撮った映画でした。
『チャーチル』は、ヒトラーが望んだ和解策をチャーチルが悩みながらも断って ’ダンケルクの撤退’に踏み切ったかを、ひとこと一言に味があるチャーチルのセリフと閣僚たちの思惑を表情ドアップで丁寧に切り取ることで描ききった。時折インサートされるドローン撮影がその他の人たちの心情を表現するスパイスになっています。
話の芯になっているのは、チャーチル専属女性タイピストとチャーチルのやりとり。彼の普段からのひとこと一言がもう作文というか演説そのものなので、時にタイピストがため息をついたりします。実際、チャーチルは作文がとても上手だったらしい。これはチャーチルのメイクでアカデミー賞メイクアップ賞を受賞したメイクアップアーティスト辻一弘さんの記事から事後に知ったのだけれど、チャーチルは公爵家に生まれ、当時の由緒ある家庭がそうだったように家族から離されて育てられたので、両親に自分の存在を証明しようと乗馬や水泳、作文に一生懸命になった、と。
辻さんはハリウッドでメイクアップアーティストとして活躍していたが、2012年に一旦引退、現代美術家として著名人の頭像を作っていらっしゃる。しかし今回チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンからのリクエストにより、これ限定で特殊メイクを担当。その際チャーチルを再現するために内面や魂を取り込もうとドキュメンタリー映像やオーディオブックを聞き込んだ。その結果がこれです。 (before)
(after)
オールドマンがこのデブっとした御大だとは。私は映画を観た後、指摘されてやっと気がつきました。うとくてすみません。ちなみにオールドマンがチャーチルに扮するにあたり、200時間以上メイクに費やしたそうです。
チャーチルが喋るシーンは横顔から撮影されているカットが多く、口元から言葉がほとばしる勢いや喉の繊細な動きがわかるんです。辻さんがここまで計算されていたのかどうかはわかりませんが、私の中では’作文’を起点に一つの線に繋がって、ひとり静かに感動してしまった。
個人的にツボだったのは、チャーチルがピースサインの向きをタイピストのアドバイスで変えるくだり(詳細はネタバレになるのでご確認を)。
(現役時のチャーチル。ピースサインが大好き)
そしてヒトラーになびくか戦うかで、一人地下鉄に飛び乗り庶民の意見を聞くところ。後者は、気がついたら私泣いてました。あのチャーチルにしても、決めるのはさぞ重圧だったんだろうなあ。
『ダンケルク』からの『チャーチル』の順で観ることができてよかった。これが逆だと、なんでこの朝から酒飲んで地下鉄の中で葉巻吸って顔と喉が繋がってるおしゃべりの太ったおっさんは苦悩するんだ?(失礼)と頭をかしげたことでしょう。配給側もそれを意識していたのでしょうか。
『ダンケルク』が今になって公開された理由の一つに、Brexit を理解させたいクリストファー・ノーランの隠れた意図という噂もありました。『チャーチル』を観て、さもありなんなどと思いを巡らせたり。まだの方はぜひ。でもその前に『ダンケルク』をご覧あれ。
日本を離れてから、あまり事前調査をしなくなりました。所有すること、縛られることに興味がなくなったこともある。自分の知る情報から動くと開拓範囲に限界が出てくるから、未知のものにあえて触れることを本能的に選んでいるのかもしれません。
言い訳はさておき、『チャーチル』地味に(褒めてます)いい映画だったな。朝っぱらからシャンパンやウイスキーをあおって仕事をするので、国王に何度も諌められるチャーチルにはクスッとさせられたし、黒と茶色のアートディレクションが効いているのもよかった。あらすじは、第二次世界大戦初期のいわゆる’ダンケルクの撤退’に至る数日間の出来事。
覚えてます?去年日本でヒットした『ダンケルク』なる映画を。クリストファー・ノーランが脚本を書いて撮った『ダンケルク』は、これから階段を駆け上がっていくだろうと思われる若手俳優たちが沢山出ていてイギリスとフランスとドイツの軍服がカッコよくて実に眼福な映画でした。もちろんドイツ軍によってダンケルクという街に孤立させられた33万人のイギリス兵が民間のボランティア船によって助けられる=撤退する物語も圧巻。ただ何故そうなったかの解説は一切なくて、5日間でいかにこのダンケルクの撤退が実行されたかを陸と空と海の3象限から淡々と撮った映画でした。
『チャーチル』は、ヒトラーが望んだ和解策をチャーチルが悩みながらも断って ’ダンケルクの撤退’に踏み切ったかを、ひとこと一言に味があるチャーチルのセリフと閣僚たちの思惑を表情ドアップで丁寧に切り取ることで描ききった。時折インサートされるドローン撮影がその他の人たちの心情を表現するスパイスになっています。
話の芯になっているのは、チャーチル専属女性タイピストとチャーチルのやりとり。彼の普段からのひとこと一言がもう作文というか演説そのものなので、時にタイピストがため息をついたりします。実際、チャーチルは作文がとても上手だったらしい。これはチャーチルのメイクでアカデミー賞メイクアップ賞を受賞したメイクアップアーティスト辻一弘さんの記事から事後に知ったのだけれど、チャーチルは公爵家に生まれ、当時の由緒ある家庭がそうだったように家族から離されて育てられたので、両親に自分の存在を証明しようと乗馬や水泳、作文に一生懸命になった、と。
辻さんはハリウッドでメイクアップアーティストとして活躍していたが、2012年に一旦引退、現代美術家として著名人の頭像を作っていらっしゃる。しかし今回チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンからのリクエストにより、これ限定で特殊メイクを担当。その際チャーチルを再現するために内面や魂を取り込もうとドキュメンタリー映像やオーディオブックを聞き込んだ。その結果がこれです。 (before)
(after)
オールドマンがこのデブっとした御大だとは。私は映画を観た後、指摘されてやっと気がつきました。うとくてすみません。ちなみにオールドマンがチャーチルに扮するにあたり、200時間以上メイクに費やしたそうです。
チャーチルが喋るシーンは横顔から撮影されているカットが多く、口元から言葉がほとばしる勢いや喉の繊細な動きがわかるんです。辻さんがここまで計算されていたのかどうかはわかりませんが、私の中では’作文’を起点に一つの線に繋がって、ひとり静かに感動してしまった。
個人的にツボだったのは、チャーチルがピースサインの向きをタイピストのアドバイスで変えるくだり(詳細はネタバレになるのでご確認を)。
(現役時のチャーチル。ピースサインが大好き)
そしてヒトラーになびくか戦うかで、一人地下鉄に飛び乗り庶民の意見を聞くところ。後者は、気がついたら私泣いてました。あのチャーチルにしても、決めるのはさぞ重圧だったんだろうなあ。
『ダンケルク』からの『チャーチル』の順で観ることができてよかった。これが逆だと、なんでこの朝から酒飲んで地下鉄の中で葉巻吸って顔と喉が繋がってるおしゃべりの太ったおっさんは苦悩するんだ?(失礼)と頭をかしげたことでしょう。配給側もそれを意識していたのでしょうか。
『ダンケルク』が今になって公開された理由の一つに、Brexit を理解させたいクリストファー・ノーランの隠れた意図という噂もありました。『チャーチル』を観て、さもありなんなどと思いを巡らせたり。まだの方はぜひ。でもその前に『ダンケルク』をご覧あれ。