ヤァ!ヤァ!ヤァ!オバマ大統領がベトナムにやってきた。エアフォースワンから降りて、夜まっさきに向かった先がハノイのブンチャー屋さん。素敵だなあ、オバマ。ハノイの人の心、鷲掴みにしましたね。

 ブンチャー(Bun Cha)とは、ハノイが誇るローカルフードの一つ。フォー(Pho)ほど有名じゃあないけれど、ワタクシ個人的にはこちらの方が好きで、週に一回は食しております。ホーチミンにもお店がある。ブンチャーは一言でいうとベトナム風つけ麺。
 Bun Cha Masako
ゆでた米麺のブンをニョクマム(魚醤)ベースのタレにつけて、豚肉や葉っぱと一緒にいただく。この肉、バラ薄切りと豚のつくねを炭火で焼いたもので、意外といけます。チャーコールでじりじり炙った肉からでる汁が滋味を醸し出すのです。って、ブンチャーの話になると止まらなくって。すみません。

 CNNで見たベトナム特有のプラスチック椅子に座ってブンチャーを食べるオバマの姿が強烈すぎて、翌24日の昼、パブロフの犬状態の私はよく行くブンチャー専門店を訪ねました。そこで目に入ったものは、ベトナム人の行列。安くて人気のある店ではあるんだけれど、行列とはねー。たぶんこの日、ベトナム中のブンチャー屋さんは繁盛したはず。オバマ・エフェクトその1。

 ようやく席につけました。でもなかなか注文を取りにきてくれない。給仕が茶髪の女性二人だけでしかも動きが新人っぽい。人手が全く足りないもんだから、男性客数人が自発的にブンの入った皿を取りに行っては届けたり、お箸を洗ったりしている。私のところにも持ってきてくれました。ベトナム男性は働かないと言われますが、何かが起きると、さりげなく実に献身的に動きます。この”何かが起きると”が重要なんだけど。ともあれ、働くベトナム人男性。オバマ・エフェクトその2。

 いつもは冷房の効いている室内に案内されるが、その日は室内が異様に混み合っていたので、オープンエアの方に、って単に屋外(笑)のテーブルに座っておりました。10分くらい待った頃、急に突風が吹いた。午後1時過ぎ。ザーッと効果音まで聞こえましたよ。激しい風で、地面に落ちているゴミやストローがテープルに飛んでくるわ、葉っぱが一枚顔にあたって私は派手なクシャミをしでかすわ、道を歩く女子のスカートがめくれるわ(本当ですよ)、クライマックスは給仕の女子が数人分のブンと葉っぱの乗ったトレイをひっくり返しドンガラガッシャン。まあ賑やかなこと。弊社の社員も別の場所にいて突風にあったことをfacebookに挙げていた。某筋によるとちょうどその頃、オバマの乗った大統領専用機がホーチミンのタンソンニャット空港に到着していたらしい。嘘のようだが、風と共にオバマ。オバマ・エフェクトその3。

 オバマがホーチミンにいた2日間、弊社の社員もずっとオバマー、オバマー(なぜかベトナム人が発音するとマーと長くなる)と言っていた。かくいう私もとある仕事で、 オバマがブンチャーを食べているTシャツという企画を出したらスタッフの一人が「Masako-san,それはすでに市場にあるから実現可能だ」という。で、販売先のWebsiteを見てみたら、そのTシャツはすでにSold Outである。動きが早すぎるぜ、ベトナム。その時、別のスタッフが「Masako-san, オバマが使ったといってもっとブームになっているものがある。それはオケだ」という。え、オケ?BBC Vietnameseの映像の26”あたりをみて欲しい。魚に餌付けをする時の桶である。ベトナム女性の一部でカワイイと人気らしい。桶。オバマ・エフェクト4。
*元のBBC Vietnameseのfacebook投稿までたどり着くのが大変なので、誰かがYoutube に挙げたものを貼っておきます。元投稿はすでに340万viewで9100コメント付き。他のネタより多いです。
 
 オバマ大好きベトナム人。ホーチミンのあちこちにまだベトナム戦争時代の戦車や米軍の飛行機が見受けられるのに、なぜこんなに純粋に喜べるのかなと思ったが、訳もない。国民平均年齢が27歳。ハノイで、ホーチミンで目をキラキラさせながらスマホを掲げるほとんどの人たちは、ベトナム戦争を知らない世代だ。そしてベトナム人特有の、悪いことはなかったことにしようという視点。それがいい意味でも悪い意味でも機能しているのではないかと。

 まるで好感度アップするだけのために来たオバマのようだが、実はかなりのビジネスマンぶりを発揮している。ベトナムの格安航空ベトジェットは、ボーイング社とボーイングB737 100機の購入契約を締結。契約額は113億USD(約1兆2300億円)で、米越間の貿易に関する契約としては過去最高額である。締結にはオバマとチャン・ダイ・クアン国家主席が立ち会った。
Vietjetむべなるかな。オバマ・エフェクト5。(手前が有名なベトジェットの女性社長。立っているのはお偉いお二人。不思議な光景)
 
 その他にもいろいろな取引が成立したが、ここでは書かない。私は専門家ではないので。ただかなりの額とだけ記しておきます。気になる方はこれを読んでね。因みにこの先の取材はできなかったらしい。
 
 さて、オバマがブンチャーとビールを一緒に堪能したおじさんは、BourdainといってCNNにParts Unknownという旅番組を持っていて、旅好きの人にはそこそこ知られている。元はマンハッタンにあるBrasserie Les Halls というフレンチビストロのシェフ。2000年以前なら「意識してなかったけどこのレストラン行ったことあるかも!」という日本人は意外といると思う(私もその一人だ。笑)。ま、彼とオバマの食事風景と対談が、9月から始まるParts Unknown のSeason 8初回に使われるのだそうだ。どうりで周りの客が平静だったわけだ。CNNですら、オバマ・エフェクトを利用する。