まさかの敗戦。ドイツがW杯で初戦を落とすのは1982年以来です。前回王者がいきなり苦境に立たされた訳は。

6月17日 タブレットがもたらした勝利、的な。
ドイツーメキシコ 0−1 

 ドイツは当初、順調に見えた。エジルは素早くボールをさばく。クロースは前のめりに蹴る。いつも通りだ。20分時点でボール保持率は60:40。なのに我々は、ドイツのGKノイアーをすでに3度見ている。つまりドイツから一旦ボールを奪うと、メキシコは鋭いカウンターで斬り込んで相手ゴールをより脅かしている。前半35分の1点も、高速カウンターからエルナンデスがドリブルでボールを運び、ロサーノに渡したボールから生まれた。その間たったの11秒。凄い。全てがシナリオ通りに進行しているかに見える。
ロサーノ

 メキシコ国民は、W杯直前まで「こんな監督、クビにしろ」と言い続けたことを反省しなければいけない。なぜ彼らがオソリオ監督を嫌ったのか。メキシコの監督は国民みんなに夢を見させる人でなければいけない。それなのにオソリオは数字や戦略にこだわりすぎるんだ。それが彼らの言い分だった。

 W杯のIT化はビデオ判定だけではない。このロシア大会から電子機器が解禁され、各チームにタブレットが2台提供されている。1台はアナリストのブース。ここにはメディアが撮った生映像とそこから取れる試合データがザクっと送られてくる。そしてアナリストは、このデータから作った静止画と彼が書き込んだテキストを、ベンチにいるアシスタントコーチのタブレットに送り、無線通信またはチャットでやりとりできる。

 放送中、メキシコのアシスタントコーチが途中選手に何かを見せながら人差し指を動かしているシーンを2回見た。送られたデータを活用していたか定かではないが、タブレットを活用していることは伺える。”プロフェッサー”のあだ名を持つオソリオ監督にとって、タブレット解禁は渡りに船だったのではないか。
 
 ドイツの先発メンバー中、2014年のW杯経験者は8人、うち6人は10年も出場している。いわゆるレーブチルドレン。新しいメンバー、キミッヒもバイエルンミュンヘン所属だし、ベルナーは昨年のコンフェデ杯の得点王だ。全員のデータはダダ漏れ状態に等しい。オソリオは、この6ヶ月研究したしゴメスがラスト10分に投入されることも想定内だった、と試合後のインタビューで答えている。
オソリオ監督
       何回撮ってもドヤ顔しか捉えられず

 ドヤ顔で答えるオソリオと対照的なのは、試合終了後にチチャリートことエルナンデスが見せた涙。ここまでの道のりを想像させる。

チチャリート涙
       チチャリートか、いにしえの浜崎あゆみか

 交代でゴメスが入る時、ドイツのアシスタントが黒いファイルを開き、紙をめくって説明するのが見えた。そもそもデータの本格的活用は、2014年W杯前にドイツチームが情報処理大手SAPと一緒に開発したMatch Insightsなる分析システムが最初だというのに、なんと皮肉なことか。それほどレーブ監督には余裕がなかった。番狂せは楽しくて、切ない。