2日目に訪ねたのは、Batad(バタド) Rice Terraces 。バナウエ中心部から1時間ほどトライシクルで山を登っていく。数日前にここを襲った台風の爪痕がなまなましい。
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倒木や岩で道が半分の広さになっているため車はもちろんジープニーも無理。トライシクルをチャーターして行くしかないのだ。
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見切れているが、ここは標高1300m

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 「天国への階段」という別名がよく似合う。幅の異なるアートのような棚田が空に向かっている。全ての棚田を平らに伸ばすと地球半周分の2万kmにおよぶという。イフガオ族は何を思って、これを丹念に作ったのだろう。しかもバタドではWall stone という石を積み上げてから泥をかぶせて田を作るスタイル。泥だけで段々を作るよりはるかに手間がかかる手法だ。
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石が積み上げられているのがわかるだろうか。

精巧さでは及ばないにしてもスケールからするとピラミッド、万里の長城にも劣るまい。そんな一面がフィリピン人にあるとは意外であった。

 到着地からずんずん山道を下る。幅が狭いうえに急。膝の悪い人にはキツいかもしれない。ある程度降り切ったところに受付があって、環境費50ペソを払う。係の女性に「よくやった」と言われたので、なんでだ?と聞いたところ、30分ほどかけて下る途中、つらくなって戻る人も多いんだそう。確かにラクではない。周りを見るとここはすり鉢状の棚田の半ば。

 そこからさらに下り、ある踊り場まできたら今度はすり鉢を登って行く。すり鉢をV字に移動する感じ。45度近い勾配に幅20cmほどの岩がかろうじて足場として差し込んであるだけなので、自分が高所恐怖症でなくて良かったと思いつつ、慎重に一歩一歩踏みしめる。途中で現地のイフガオ族とすれ違うときは、どちらかが棚田の広い場所に戻らないといけない。こちらは杖をつきつつ登って行くが、彼らはビーサンで軽々と飛ぶように下りて、登ったりする。
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農家の人に見える私。手の先に見える緑屋根の集落には80人ほど住んでいる
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ほぼ収穫後なのに、かすかに残っていた稲穂
太陽がスポットライトに感じられるほど、キーンと容赦なく照りつける。1500mくらいのところで私は止まることにした。あと300mくらい上に行けるのだろうが、再び下って登るだけの体力を温存しないといけない。今日のガイドのエゼキエルも、無理はするなと笑顔で言う。過去、客を担いで帰ることもあったそうだ。

 エゼキエルはとても優秀なガイドで英語もうまい。田んぼが石の壁でユニークなこと、世界遺産の指定を受けた理由の一つにマシンでなく手で苗を植えていること、農薬は一切使わずひまわりの花を腐らせて肥料にして育てるオーガニックな米であること、二毛作ができないので生産した米は他の土地には回らず純粋の地産地消であることなど、よどむことなく喋ってくれる。途中聞きなれない単語があったのでスペルを聞いたら、スペリングという概念自体がわからない様子。話題を変えて、英語うまいね、どうやって習ったのと聞いたら、観光客と会話していて覚えた、と。典型的な”耳から英語”の人だ。一旦スペルを見ないと定着できない私からすると、うらやましい気もする。
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        エゼキエルくんはトライシクルの屋根から写真を撮ってくれた

「自分は2年で学校に行くのを辞めてしまった」
学校というのは小学校のこと。いまはそれを後悔している。だからお客さんとしゃべることで、勉強しているんだ、ガイドしながら言葉を学ぶには体力をつけないといけない、だから太らないようにしている。どうやら私は彼の心の引き金を引いてしまったようだ。

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naue には小学校しかない。中学校からは山を降りた街に出て寄宿せねばいけない。お金もかかるから、小学校しか出てない人も多いんだ。

   前をずんずん歩くエゼキエルの生い立ちをふんふんと聞きながら、杖をついて山道を登る。私の後ろに、いつの間にか頭に袋を担いだ小さな男の子がついて来ていた。先に行っていいよとジェスチャーで示すが、首を横にふって後ろからついてくる。エゼキエルが言うには、このお姉さんが落ちないようにボクが後ろから見張るとのこと。じゃあ、お言葉に甘えて君に守ってもらうことにするよ。

 2時間以上かけて、ようやくトライシクルの駐車場に戻って来た。よく歩いたぞ、自分。
後ろから見守ってくれたボクが頭に担いでいたズタ袋を道にぶちまける。中身は棚田を作る石だった。さぞ重かったろう。年を聞いたら7歳という。身長からてっきり4歳くらいかと思っていた。なるほど高所に暮らすのに、背が低いのは理にかなっているのかもしれない。お礼として抹茶アメを一つあげた。口に入れた途端、ボクの顔がほころぶ。嬉しいなあ。世界遺産と暮らすということは誇らしいが、なかなかしんどいかもしれない。私たちは、500mlの水を2本ぐびぐび飲み干した。それでもカラダの細胞は満足しないようで、ビールが欲しかった。
                    (この項、あと少し続く)

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        Yes, I surivive Batad (バタドで生還した)