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 先日サンフランシスコでずーっと気になってたamazon go に行ってきました。Amazonが展開するレジで会計する必要のない、無人コンビニです。
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         サンフランシスコの2店目。1店目に比べて控えめな店構え

 入店するには、専用のアプリ(amazon go) をダウンロードする必要があります。本人の名前と一緒に出てくるバーコードを改札にかざすとゲートが開き、ショッピング開始。ところがスーパー、コンビニにつきもののカゴがない。自分の持つバッグやポケットに欲しい商品を入れることになる。後ろめたいんだ、これが。万引きするってこういう気分なのねと思いましたよ。

 その気分が嫌な人、あるいはバッグを持っていない人は、茶色の紙袋(10セント)またはオレンジの不織布でできたamazon go エコバッグ(99セント)を購入できます。

 お金を払わないで済むのはどういうことかというと、天井に凄まじい数のセンサーカメラがあって客をガチにモニター。で、バッグに入れたものをカウントする。実験的にポケットに入れたものもちゃんとカウントされていました。ビーフジャーキーを靴べらみたいに靴のかかとに挟んだら、いや靴の中敷にしたらどうだったんだろう。試してみればよかった。買い物自体は実に快適。お金を気にしなくていいのは、いい。特に財布を忘れるサザエさん(若い人はわからんかもしれんが)体質の自分には、うってつけのお店であります。

 1個だけ紛らわしいと思ったことが。サンフランシスコの前にニューヨークに滞在していました。その際、Amazon に買収された食料品スーパーWhole Foods で好物のナッツやチョコを購入。そこではオレンジのsale price(店でのお値段)と白いretail price(メーカー小売価格)が併記してあり、オレンジのお得なsale 価格で買い物できてお得感満載でありました。amazon go もWhole Foodsと同じデザインの料金表だったので、オレンジ価格US$1.25?安い安いとばかりに西海岸のオーガニックナッツを次々カバンに入れてみた。が、さすがに不安になり整頓係のお兄さんに聞いてみたら「それは1オンス(28.3g)あたりの価格だから、右の価格をみてください」と。おっと危ない。よく見ると$4.99。retail price のところがsale price になっていた。慌てて半分を棚に戻しましたよ。もちろんそれは会計にカウントされていなかった。つまり一旦バッグに入れたものを戻しても、大丈夫。
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        収穫物。organic 系が充実。ナッツもチップもチョコも美味しかった!

 完全に無人化というとそうでもなく。メキシコ人らしき3人連れはアプリがないから入れず、また出直してねーと改札にいるお姉さんに諭されていました。話を聞いてみたら、物珍しくて入ってくるもののアプリを持たない人が沢山いるため説明する係員が必要と。
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さらに商品がきちんと並んでいないと計測機能がおぼつかないらしく、商品を常に整える人がおりました。完全無人化はまだ少し先かもしれません。

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 そうそう5月7日にキャッシュも使えるamazon go がニューヨークにオープンしました。キャッシュを使えるようになった理由は、銀行口座を開けない人への差別という非難が起きたから。かたや中国では、ホームレスに寄付するにも彼らのスマホにWeChat をかざしてチャリン🎵なのにね。資本主義と平等を両立させるのは難しい。

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        売り切れたら、so good. it's gone とsmile マークに表記。チャーミング

 amazon go を出て10分するとアプリにReceipt が送られてきました。
   Your trip time was 11m 18s。
滞在時間11分8秒で、私は$24.92 使ってました。Contact us about this trip という表記も洒落てます。shopping じゃなくて trip ですよ!amazon go の1店舗あたりの売り上げは、$1.5M(約1.6億円)で、普通のコンビニの1店舗当たりの売り上げ$1M (約1.1億円)の1.5倍。なんかわかるなあ。



 今年のアカデミー作品賞を『ROMA/ローマ』でなく『グリーンブック』が受賞したと知った時、一昨年「え、『ラ・ラ・ランド』じゃなくて『ムーンライト』?なにそれ?」と思ったのと同じ感情が甦った。さらにいうと『ムーンライト』は私には重たくて、観ているうちにどんどん心にオリが溜まっていく映画だったので、なおさら警戒心が増した。

 しかし『グリーンブック』を観たら、そんな気持ちはたちまち吹っ飛んだ。実によく出来ている。人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカの話なのだが、単なる白人vs黒人の構造を超えて、ピアニストである黒人が野蛮な白人を知的に導く一方で、黒人に降りかかる様々な困難を海千山千の白人が一つひとつ解決していく、なんとも痛快なロードムービーに仕上がっている。
 

 そう、これはロードムービー。ピアニストであるDr.シャーリーが演奏旅行のためアメリカ南部を移動する。当時黒人は公共交通機関に乗る自由はなく、乗れたとしても差別や迫害を受けるため、ある程度お金を持った黒人は自家用車を持つ。その運転手を勤めたのがイタリア系移民のトニー。彼が2ヶ月間ハンドルを握るのが、ブルーのキャデラック。これが実に色っぽい。行き着く街ですれ違う車も全て流線型のシボレーインパラやらコルベット。アメリカ車がいちばんカッコよかった時代。
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 収穫の終わった麦畑や黄色く色づく樹々をすり抜けて、車は街から街へと移動する。アトランタ、ナッシュビル、メンフィスと、名作『風と共に去りぬ』に出てくるような南部のお屋敷がタイムトリップさせてくれる。映画タイトルとなったグリーンブックとは、自動車で旅行する黒人を対象に発行されていた旅行ガイドブック。1939年ハーレムの郵便局員グリーン氏が始めたことからグリーンブックと呼ばれた
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            THE NEGRO MOTORIST の文字が
これに載っているホテル、レストランなら黒人でも大丈夫という、地球の歩き方的サバイバルガイド。Dr.シャーリーとトニーが泊まるモーテルやドライブインでColored Allowed, Colored Onlyといった表示がさりげなく映されると、差別の事実がじわじわくる。駐車場で飲み食いして騒ぐ黒人たちを、ちょっと離れた位置に椅子を置いて眺め、カティーサークをちびちび呑むDr.シャーリーにまたじわじわくる。

 
Dr.シャーリーを演じたマハーシャラ・アリは綺麗な英語を話し、スーツやタキシードも板についている。あの『ムーンライト』で、なんちゃってベルサーチを着てヘラヘラしていたドラッグディーラーと同一人物とは思い難い。トニーについては、誰だこの歳くったクセのある役者は?と思っていたら、なんと『ロード・オブ・ザ・リング』のアラルゴン、ビゴ・モーテンセン。
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ビゴ・モーテンセン
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         手紙の書き方を教えるDr.シャーリーとトニーこと黒髪のモーテンセン
髪を黒く染め、20kg太った。ロバート・デニーロかい!とツッコミたくなる。さらなる驚きは監督だろう。『メリーに首ったけ』などコメディーを得意としてきたファレリー兄弟の兄ピーター・ファレリー。もう意外だらけなのだ。


 この映画が作品賞を獲ったことについては、批判やいろいろな意見があるようだ。典型的な白人目線の映画、黒人差別のダークさが足りない、オスカー向きの教訓垂れ流し...でも私は素晴らしい作品だと思っている。まず差別のバラエティを今まで以上に理解することができた(YMCAで、Dr.シャーリーと白人男性が裸で捕まっていたのは、おそらく同性愛のゆえであろう。何の説明もなかったが)。それ以前に生きる上で大切なことーーウソをつかない、ものを盗まない、ゴミを捨てない、契約は守る、暴力はいかん、間違った権威をかざすものには伝家の宝刀を使ってよい、困った時は助けを求めていいーーが、嫌味なくユーモラスに描かれているからだ。2時間強で何度声をあげて笑ったことか。子供の時に、こんな映画に出会いたかったよ。

 そうそう。見終わると、手書きの手紙をもらいたくなる、ケンタッキーフライドチキンを食べたくなること請け合います。

 
 
 

 とにかくたまげた。アンソニー・ボーディンがフランスのホテルで亡くなったと。原因は自死。ちょうど数日前デザイナー ケイト・スペードがうつ病が原因で自死したというニュースが駆け巡ったばかり。アメリカのTVはうつ病ホットラインの告知を番組の終わりに付けまくっている。

 ボーディンがどういう人なのかピンと来てない人のためにちょっとだけ説明すると、CNNでParts Unknownという世界B級グルメ番組を持っている元シェフだ。ちょうど2年前オバマがベトナムに来た時、ボーディンと一緒にハノイでベトナム名物ブンチャーを食べた時のことを拙ブログに書いている。
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  この写真に見覚えのある方も多かろう。ボーディンは身長190cm。オバマが小さく見えます。ベトナム特有のプラスティック椅子、なぜここでは赤じゃなく青なんだろう。世界各国の、現地の人が食べるみんなが知らないUnknown なものを白髪のボーディンが果敢にトライする映像が見たくて世界中にファンがいる。私もその一人だ。

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          ハノイで「喧騒の中で食べるのがうまい」とボーディン
   今回の訃報を受けてFacebook やTwitterに流れてくるボーディンにまつわるポストや論調を手当たり次第に目を通していく。ん?「Kitchen Confidential」? この本なら私、読んだことある。正確にいうと読みかけたことがある。私はくいしんぼうなので、美味しいレストランの話や食事がうまそうに書かれている本が好き(ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズは、探偵ものというよりグルメ+恋愛ものとして読んでいた)。「Kitchen Confidential」も2001年、その流れで購入した。

   本の中で  ”ブランチは避けよ” ”月曜の魚は避けたほうがいい” ”ムール貝は食べてはいけない”など、自分の好物がことごとく否定されていく。しかも厨房を経験した人の筆で書かれるからリアルったらない。途中でこれは知らないほうがいい。私は自分の意思で食べると決意し、私としては珍しく読むのを放棄してしまった本である。まさかその著者がボーディンだったとは。

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 そんなわけで、昨日一日かけて「Kitchen Confidential」を読み直してみた。いや、感覚としては初見に等しい。今回はボーディンの生きざまとして目に、脳みそに、ガンガン踏み込んでくる。彼が食に目覚めたきっかけは、幼少期Queen Mary 号の特別二等食堂で出されたヴィシソワーズが美味しくて、しかも記憶に残る味だったから。オフクロの味とか、慣れた味とかそういうレベルではない。一人の人生を決めてしまう食事に小学生の時に出会ってしまい、それを自覚しつ続けたことが凄いではないか。

 大学を出てから人とは違う料理人になるためにCIA(と言ってもみなさんが想像する方ではなく、米国料理学園のこと) に通う。ここまでなら素晴らしい経歴に見えるが、ドラッグやSEX に明け暮れるシェフたちに刺激されて、レストランを多数ホッピングする。イタリアのマフィアに雇われる、人をクビにすることを半端なく経験する。彼が救うレストランあれば、潰してしまったレストラン多数。命の危険を感じたときは、マーロン・ブランドの映画「波止場」を思い出して引き際を自覚する。おかげで流れで「波止場」を流れで観てしまいましたよ。iTunes 、いや、ボーディンありがとう。あなたのおかげで私はちょっと賢くなった。

 ボーディンの母親 Bladys BourdainがThe New York Timesに語ったことによると「私にとって彼は、世界で一番こんなこと(自死)をしそうにない人間」だと。ちなみに母親 は元New York Timesのライターだったので、ボーディンの記事はNew York Times がかなりの数でカバレッジしている。

 不思議なことがある。数年前東京を離れる際に、私は段ボール100箱分の本を処分した。海外生活には本当に好きな本しか持ってきていない。なのに、なぜ私は途中放棄した「Kitchen Confidential」をそのセレクションに入れたのだろう。そして今、私はようやくこの本を咀嚼できている。読んで落ち込むと思ったが、ページをめくるごとにお腹が空いて仕方ないので、ワインを飲みながらリブステーキ肉の筋を切って塩コショウをしている。

 




 
 
 

  "Good Morning, Vietnam" を観た。20数年ぶりだ。私の中で、楽しい映画という記憶しかなかったのは、ロビンウイリアムズがマイクに向かって呼びかける "Gooooooood Morning, Viet Nam!" があまりに印象的で、その前後に出てくる人たちの笑顔で映画自体を覚えていたからなのだろう。
Robin

 あらためまして、これは反戦映画。数あるベトナム戦争ものと違って、虐殺や進駐中に狂っていく兵隊、女性をひどく扱う場面がないから、当時の私にはそう見えてなかっただけの話。

 ロビンウイリアムズ演じるDJクロンナウアが、着任早々アオザイ姿の女性の尻(映画では明らかにそう見える)を追っかけようと、金にものを言わせてベトナム人から自転車を買い取り街を疾走する場面がある。いわゆる”醜いアメリカ人”を描いているにもかかわらずここがお笑いに見えてしまったのは、同僚である黒人軍曹が同じ行動をするのだが、彼のタイヤにゴムの部分がなくて金属部分だけで自転車をセコセコ漕ぐというコミカル加減の影響が大きい。あくまで監督のバリーレビンソン(「レインマン」の監督でもある)は、普通の反戦映画にしたくなかったんだろうと勝手に想像します。

 DJクロンナウアは、兵隊たちを元気付けたい一心で、マシンガントークの合間にロックンロールの選曲をする。軍指定の推薦曲を無視するものだから上司から怒られてしまうわけですね。
 「じゃあ、どんな曲ならいいんですか」
 「パーシーフェイスオーケストラ(よくデパートとかでかかるアレです)、アンディウイリアムス、ペリーコモ、そしてフランクシナトラ卿だ(卿ですよ、卿)」
 「ボブディランは?」
 「ボブディランは論外だ」
という会話が交わされる。
 はじめてこの映画を観たときは、このやりとりに全く注目していなかった。というか意味も背景もわからないので、流してしまった。ところが今、このタイミングで見ると、ボブディランという単語に重みが出てくる。

 先月ボブディランがノーベル文学賞を受賞したとき、なにか小説でも書いたのかなと思い調べたところ、どうやら大昔に書いた歌詞に対して授与されたと知って驚いた。聞いたことのある歌といえば、Like a Rolling StoneとかBlowin' in the Wind(「風に吹かれて」)とか Knockin' on Heaven's Doorだけれど、歌詞をしげしげと眺めたのは初めて。アメリカ人小学生がわかる程度の英語なのに、奥が深くて、反戦メッセージが強かったことを知りました。多くのミュージシャンにカバーされたわけです。


21歳の時に書いたBlowin' in the Windから一部を書き出してみる。

   Yes, how many times must cannon balls fly 
   before forever they're banned 
  どれだけの砲弾が飛びかえば、永久に禁止になるんだろう
   
   Yes, how many times a man can turn his head
   and pretend well he just doesn't see
     どれだけ顔を背けるのだろう。そして見ないふりをするんだろう
   
   Yes, how many deaths will it take till he knows
   that too many people have died 
  どれだけ死ねばわかるのか。どれだけ多くの人が死んだのかと
   
   The answer my friend is blowin' in the wind
   The answer is blowin in the wind 
  その答えは、友よ、風に吹かれている
  答えは風に吹かれている       ©Bob Dylan/Blowin' in the wind

これは、歌の一部なんですが、いま見てもじわじわくる。いや、今だからじわじわくる。

余談ですがGood Morning, Vietnam、実はタイで撮影されたんですと。いま住むベトナムは左ハンドルなのに、映画では車が右ハンドルで出てくる。調べたら、撮影地はタイでした。

GoodMorningVietnam


昔ちっともわかってなかったことがわかる時、年を重ねるのも悪くないなと思います。いや、マジで。

ところでボブディラン、本当にノーベル賞授賞式に行くのかな。


 

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