カテゴリ: ヨーロッパ

 ずーっとあることを夢見ていると、何かの拍子に叶うことがある。先週カナリア諸島を訪れることができたのは、そんな僥倖のひとつ。
 国際広告賞のひとつClio賞の審査がこの島で行われた。案内のメールはもらっていたものの、SpainのTenerifeという街であるという程度の認識で事前に調べることもせず、どうやら自分の目的地がカナリア諸島Canary Islandsであることがわかったのは、2度目のトランジットMadridの空港ゲートで。どんだけ鈍感なんだ、自分。
 
   なぜカナリア諸島にそんなに惹かれていたか。それは大滝詠一さんの『カナリア諸島にて』のせい。
 ♪薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて 海に向いたテラスでペンだけ滑らす
で始まる歌を耳にすると、青く透き通った世界が3Dで立ち上がってくる。この時代の歌が全般的に凄いのは、歌詞が奔放で、ああこんな言葉の使い方もありなんだと思わせてくれるところ。さすが大好きな松本隆さま♡もちろん大滝さんのメジャーだかマイナーだかよくわからん不思議なコード進行もあるけれど。詳しくもないくせにすみません。
    
カナリア諸島

 さて。7つの島で構成されるカナリア諸島は、スペインなんだけどモロッコの左横に位置し、むしろアフリカの一部に見える。私の滞在したTenerifeが一番大きい島で一番人気らしい。誰に人気かというとヨーロッパの家族連れ、あと年金生活のお金持ち夫婦に。『カナリア諸島』を聴いていた時は、カップルにふさわしい素敵なリゾートなんだろうと勝手に想像していたが、全く違ってました。はい。

  まず火山島である。湿気が全くない。カップル向けのリゾート地には、ある種湿気がないといかんと勝手に思っているが、ここは淫靡な空気はこれっぽちもない。しかも空気が動かない。香水をつけてもはかなく消えてしまう場所。同じスカイブルーの空と火山しばりだと、ハワイ島を思い出すが、まだあっちの方がカップル向きである。なんでだろう。ハワイだと海辺にサラサラしたやさしい風が吹くからだろうか。

 半日の空き時間を利用して、スペイン一の火山Mt. Teideに登ってみた。富士山に近い標高3,718m。
Teide

でもケーブルカーに8分乗れば頂上にたどり着けちゃうんです。だから頂上は子供連れだらけ。トレッキング道も元の火山石を活かして、少々の凸凹をスニーカーで乗り切れる程度に整理(と一見ではわからない)してある。
富士山に過去2回汗まみれになって登頂した人間としては、ちょっと拍子抜けしました。同じくらい寒かった。でも、ゴミはなかった。 
 
 名産はバナナ。火山灰との固有の土がつくる土台にワシワシと生えている。飛行機が降りるときに見えた海沿いをぐるりと囲むグリーンベルトはこれだったのかー。朝食で食べてみました。むっちり濃く、ハーゲンダッツみたいに甘い。複雑に甘い。ミネラルがいっぱい含まれているのだろう。日本で食べるフィリピンやキューバ産の優しい味のバナナとは違う。ちなみにベトナムのバナナも全く違うんですよー。ベトナムのは小さくて短くてちょっと腐ってるのかなコレ?みたいな酸味がします。余談ですが。
 
 ハエ天国である。テラスで朝食やランチを食べていると、まあ飛んでくる飛んでくる。一人あたり5羽を追い払わないといかん。追っ払おうと手をハタハタしていると、ああこれは一時期日本ではやったパラパラ。審査員達が全員それをやってる姿を想像してください。笑えます。
ここでハエ対策を考えたらInnovation CategoryのGoldをあげてもいい、という提案も出たくらい。ま、
温暖な気候で無風状態、バナナ畑。これがハエに取ってパラダイス。ときどき指のうえに止まることもあった(!)。どんだけ人に慣れてるんだか。ハエ対策として朝も昼もテーブルにはレモングラスのでかいキャンドルが置いてありました。キャンドルはムード作りのためだけにあるのではないのですね。
 
 キッズ対応。大手のリゾート、ホテルだとキッズプログラムがあります。室内用、アウトドア用。小さな子供連れのファミリーには素晴らしいことじゃないでしょうか。男性審査員の一人が家族連れで来ていて、昼間子供二人はキッズプログラム、奥様はSpaでのんびりさせている。一年分の罪滅ぼしがここで出来ていると目に力を込めて言っておりました。

 あれ、カナリア諸島、不思議な土地に見えてます?でも美味しいところは最後にくるのです。このTenerifeという島だけでビーチが70もある。70。私はホテルに附属しているAbamaというたった一つのビーチしか体験できなかったけれど、水が透き通っていて重くて冷たくて気持ちよかった。明るい午後8時。綺麗な魚こそいないが、浜から200mくらい沖に泳ぐと岩場があって、ウニがいっぱい生息していた。一瞬穫ろうかと誘惑にかられた。ホテル所属のライフガードみたいなおじさんが一人仁王立ちしてこっちを見ていたから止めました。別の言い方をすると、沖でも安全。ベージュの砂浜も優雅さを醸し出している。火山の島だから切り立った地層を観察もできます。あと69のビーチを訪れる機会はあるかなあ。
 
『カナリア諸島にて』のサビは、
 ♪カナリアアイランド、カナリアアイランド
  風も動かぁなぁぁぁい
Tenerifeは、ほんとうに風も動かない、静かな街だった。
作詞した松本隆さんは、当時行った事がないから想像で書いたとおっしゃっていた。その想像力で、当時ひとりの少女の夢はつくられてしまったのだ。
 
 

 
 
 

  

 先週から仕事の合間にカンヌ(略称Cannes Lions。広告業界における最大のお祭り)のサイトで入賞作を見ている。昨2014年はベトナムに着任したばかりで余裕がないのと、何せW杯の年、サッカーの試合を見るのが精一杯で、カンヌまで気がまわらなかっただけに、実に新鮮。楽しい。サイトで見る一つ一つの映像が乾燥しきった私のスポンジ頭にぐんぐん染みてくる。今年は自分の仕事のエントリーもないから、冷静だし。サイト自体も改善されておりサクサク見やすい。ショートリスト(予選突破作品)から、自分で金銀胴を勝手に採点しながら見るのは非カンヌ組の醍醐味かもしれない。って、すみません単なる負け惜しみですね(笑)。くそー、カンヌの日差しの下でロゼ飲みたいぞ!

 さて。驚いたのは、カンヌは世界の課題の掘り起こし発表会になってしまったことだ。今までもソーシャルグッドと言われる”世の中のためになる広告”的潮流が3年ほど続いていたが、今年はこれまでの課題が深められると同時に、まあこんなものもあるんですか!といった新しい課題もさらに発掘されている。

 一つ目の課題:ジェンダー。なかでもLGBTですね。昨日アメリカの最高裁で、同性婚が遂に認められた。white-house-rainbow-3
(写真は同性婚を祝ってレインボーカラーになったホワイトハウス)
広告の先駆けとしては、2012年にある時期Youtubeで一番見られたCMとして話題になったExpediaのgay marriageをテーマにしたCMがあったなあ。2015年は様々な部門において、LGBTを扱ったいい作品が見受けられた。ここでは有力作を数点紹介させてください。

 ダイレクト部門ゴールドのLOVE HAS NO LABELS/AdCouncilは、広告業界以外の人もご存知でしょう。TwitterやFacebookで今年2月のバレンタインの頃に相当シェアされたネタだ。サンタモニカの街中に設けられたスクリーンに骸骨が二つ出て来て踊ったり抱き合ったり。それがレズビアンのカップルだったり、ダウン症と普通の子供だったり、お年寄りの夫婦だったり、人種の違うカップルだったり。最後にlove has no labelsというメッセージで終わる。骸骨が出てくるのに心温まる仕上がりになっているのが、職人技。制作はアメリカのR/GA。この作品が多部門にわたり入賞したため、2015Agency of the Yearを受賞した(私の大好きなTHE GAME BEFORE THE GAME/BEATS BY DREなど他の仕事の受賞も多く、計33LIONを獲得。あっぱれの一言)

 PROUD WHOPPER/BIRGER KINGはプロモ部門ゴールドを受賞。舞台はサンフランシスコにあるBIRGER KINGのお店。レインボーカラーの紙に包まれたPROUD WHOPPER新発売する。興味津々の客が注文し何が新しいのかを尋ねるが、店員も中味を知らず、食べ終わる頃パッケージの中に印刷された”人間中味はみんな同じ”というメッセージを見つけて感動するというオチ。これを読むとなあんだ、と思うでしょ。でも一行で書けるアイデアが強いのですよ。よかったら映像を見てくださいね。

 フィルム部門からは、FAMILIES/COCA-COCA (MADRID)。映像はスペイン語ですが、私の力不足でカンヌサイトから英語吹き替え版がダウンロードできないので、簡単なあらすじを。子供たちが学校から帰って来て、今日学校でこんなこと言われちゃったと各々の家で親に報告します。「お前の母さん、年とってるなー(実際老けたお母さんが哀しそうな顔をする)てアタシ言われた」「君のところは、本当の両親じゃないらしいね(上品そうな西欧人カップルと東洋人の養子とわかる子供)」「きみんちって、お父さんがママで、お母さんがパパなんだね(主夫とキャリア妻)」そして最後に「みんなが言うんだ。僕にはお父さんが二人いるって(顔を見合わせながら、コークを飲む文化人ぽい男性二人)」男性二人は、「じゃあ君はどの家族を選ぶ?僕たちを選ぶかな」と尋ねると、子供はそれぞれの親の前で「Yes!」と嬉しそうに宣言。メッセージはChoose Happiness。上位に入賞するかどうかはわかりませんが、上質のリネンでできたシャツぽくて好感が持てます。
 このCMを見ていたら、5年ほど前私に降り掛かって来た出来事を思い出しました。六本木を歩いていて、30代白人男性二人に「あのお、僕たちの子供を産んでもらうことは可能ですか」と声をかけられたんだった。どう答えたかって?それは秘密です。あの二人、どうしてるかなあ、アジア人とのハーフの子供が欲しいと真剣に私にプレゼンしていたけれど。叶っているといいなあ。

 さて、フィルム、ブランデッドエンターテインメント、チタニウムといった重鎮部門の入賞発表はこれから。どういう作品が上位を占めるのか、純粋にドキドキしている私です。くー、ロゼ飲みたいぞ!
 カンヌの項は、明日以降へと続く(予定)。

 

 

 

 

 8日の朝、いつものようにテレビをつけると"Je suis Charlie"(I am Charlie)とフランス語で書かれた紙を掲げる人たちの映像が目に飛び込んで来た。「私はチャーリー?なんのこっちゃ?Snoopyファンがチャーリー・ブラウンのファンミーティングでも始めたのか」と寝ぼけ眼をこすりながら見ていたら、どうやらパリでテロが起きた、しかも出版社が標的で10人ほど射撃されたというではないか。徐々に頭が覚醒するにつれ、Charlieはチャーリーじゃなくてシャルリーと発音するんだ、シャルリーは雑誌シャルリー•エブド:CHARLIE HEBDOのことなんだ、と納得した。yjimage
  さて"Je suis Charlie"のロゴは、Joachim Roncinというフランス人のアートディレクターが、事件後わずか1時間でデザインしたもの。そういえば311東日本大震災の後も、全国に節電を呼びかけるポスターは東京にいるアートディレクターたちが率先してつくっていたっけ。ふむ。左脳より右脳で考える人の方が、アクションが早いような気がする。そして彼のデザインした ”私はシャルリー” 画像は、Twitterのハッシュタグ #JeSuisCharlieをコアとしてまたたく間に世界に拡散される。それに追随して世界中のメディアが報道。いつのまにか"Je suis Charlie"は、たった2日間で言論の自由を守るスローガンとして認識されるにいたる。
 黒地に白のJE SUIS、グレーのCHARLIEが配されたデザイン、実によくできている。
CHARLIE HEBDOの表紙と題名と同じゴチック系のフォントを使うことで意志の強さが出ているし、JE SUISも同じゴチック系だが横に長く文字を細めにしてCHARLIEを引き立てるディテールにも好感が持てます。報道を見ていたらGaramondやTimes(ひらたく言うと明朝体)のフォントで書かれたJe suis ボードも国によって見受けられたが、フランス版オリジナルの方が哀しみと端正さが絶妙に表現されているというか。まあ、こういう類いのものを分析するほど無粋なことはないですね。すみません。職業病なので許してください。
 みなさん既にご存知のようにシャルリーが意味するCHARLIE HEBDOは、強烈な風刺画で有名な雑誌である。特にイスラム圏を攻撃するイラストが辛辣で、2011年にはマホメットを皮肉ったイラスト(写真1。笑いすぎて死ななかったら、ムチ100回の刑!と書いてある)が原因でビルに火炎瓶を投げられたのはまだ記憶に新しい。o-100-LASHES-570
ビンラディンを裸にして下半身をいじった風刺画などもあった。幾つかはときどき雑誌クーリエ•ジャポン(講談社)に掲載されたのを見ていて、確かに面白いんだけど正直ここまでやっていいのかなあと感じたこともある。新大久保や大阪で嫌韓のヘイトスピーチって続いてますよね。あれを聞いたときと同じような居心地の悪さかな。

 いま世界中で”言論の自由”の危機が騒がれているわけだけど、この雑誌に関して言えば、ヘイトと言論の自由のバランスがいまひとつ取れてなかったようにも思う。かといって、ムスリムを擁護している訳ではないですからね。誤解のないように。人を殺すのは絶対にいけません。
 "Je suis Charlie"のボードをデザインしたJoachimいわく「自分の思いを言葉にできなくて、イメージを作った」(I created an image because I didn't have the words.)そうです。でもこのデザインは、少なくとも世界中の人に、何かをつきつけて、心を動かしたメッセージだと思う。
48時間にダウンロードされて印刷された枚数という項目がギネスにあるなら間違いなく世界一のはずだ。
(写真2。ドイツのインテリ新聞Der Spigelの本社で撮影されたもの)。
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末筆になりましたが、犠牲になった皆様のご冥福をお祈りします。







 
 

 




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